

アロマの基材について
精油を希釈する、あるいは分散させるための材料とその注意点

アロマの基材とは?
アロマテラピーは自然療法ではありますが、自然由来だから安全と言い切れるものではありません。原液あるいは高濃度での使用だと、刺激が強くてトラブルになる種類の精油も存在しているからです。
そのため、アロマテラピーでは原則として原液では使用せず、1~30%濃度程度に植物油など何らかの素材で希釈して使用することが普通です。その希釈のために使用する材料を、基材(ベース素材)と呼んでいます。
希釈する際に使用するオイルのことを、精油の成分を運んでくれる(carry)物として、キャリアオイル(carrier oil)あるいはベースオイルと呼びます。その外にも、ジェルやアルコールなどがあり、それぞれ特徴がありますので適切なものを選びます。
アロマの基材の種類
基材の種類としては、以下の5つが挙げられます。
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植物油
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ホホバオイル(ワックス)
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無水エタノール(アルコール度数96%以上)
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水溶性ジェル(精油は溶解していない)
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スピリタス(アルコール度数96%のお酒)
この中には、水よりも油と仲の良い親油性(疎水性、非極性)のもの
水とも油とも混ざるもの
水としか混ざらないものがあり、その特性を理解して使用していくのが良いでしょう。
植物油

アロマテラピーでは、主に植物油を基材として使うことが多いです。1種類ないし数種類をブレンドして使用します。
アロマテラピーのエッセンシャルオイル(精油)は油そのものではありませんが親油性を呈する為、油とは混ざり合いますが、水には溶けることなく分離してしまうからです。
【特徴】
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精油がしっかり混ざる
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安全に使用しやすい
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肌になじみやすい
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開封後数か月で酸化(劣化)する
【選ぶ時のポイント】
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低温圧搾一番搾り
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働きかけたい部位によって適した種類を選ぶ
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高品質
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酸化していない
【使用時の初心者向けガイドライン】
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顔は1~3%濃度
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体は10~30%濃度(マッサージの場合は5~10%)
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料理の香りづけの際に精油を50分の1~100分の1程度に希釈したものを材料に少しずつ足していく
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保管方法は精油の保管方法と同じ(高温多湿と日光を避け、立てて保管)
【概 要】
エッセンシャルオイルと植物油は効果を補完する関係があり、植物油を使用部位に使用することによって、精油にはない植物油の栄養素や有効成分が与えられ活性化される為、精油の効能との相乗効果を発揮します。精油が高品質であれば植物油は適当なもので良いというわけではなく、植物油が高品質であればあるほど、その栄養素の力によって使用部位が精油の効能をしっかりと受け取って使用することが出来るので、植物油にも是非ともこだわりたいものですね。また、植物油にもアレルギーなどもあり得ますので、初めて使用する植物油はパッチテストを行うようにしてください。
それ以外にも、マッサージの際に手などの動きを滑らかにして効果的にする目的で、キャリアオイル単体で使用することもあります。1本、必ず手元に置いておいて必要に応じて使っていただきたいと思います。弊社では、安価なサンフラワーオイルとヘーゼルナッツ、マカデミアナッツオイルを2021年4月に化粧品認可を経て販売予定です。
植物油は、化粧用オイルと食用オイルがあり、
「化粧用オイル」はお肌や筋肉に塗布やマッサージによって働きかけるために使用しますが、植物油の中でも皮膚に特に良いもの、筋肉へのアプローチがしやすいものなどがあります。
「食用油オイル」は、食品に香りづけしたい時に。
精油を直接材料に1滴落とすと香りが強すぎることがありますので、精油をオイル成分多めの食品添加物香料の基材として使用される場合、精油が200分の1~50分の1程度の重量濃度(容量濃度でも問題なし)になるようにスピリタスで希釈します。精油1滴が0.05mLなので、オイル5mLに1滴垂らすとだいたい100分の1濃度になりますね。作成した香料製剤は少しずつ材料に落として使用します。冷蔵庫保存をし1週間以内に使い切ってください。
ホホバオイル(ワックス)
ホホバオイルは植物から採れますが、オイルではなくエステルワックスと呼ばれるエステルです。
植物油と違い、酸化・劣化が起こりづらい為、使用しやすいキャリアオイルです。
しっかりとした保湿作用がありますが、植物油と違って栄養素がほとんど無い為、植物油と違って皮膚などの栄養供給による活性効果が得られませんので、アロマテラピーのケアでは積極的な使用はしません。
【特徴】
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精油がしっかり混ざる
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安全に使用しやすい
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全ての肌質になじみやすい
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肌を柔軟にする
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驚異の酸化安定性(劣化しづらい)
【選ぶ時のポイント】
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低温圧搾一番搾り
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高品質
-
酸化していない
【使用時の初心者向けガイドライン】
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顔は1~3%濃度
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体は10~30%濃度(マッサージの場合は5~10%)
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料理の香りづけの際に精油を50分の1~100分の1程度に希釈したものを材料に少しずつ足していく
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保管方法は精油の保管方法と同じ(高温多湿と日光を避け、立てて保管)
無水エタノール
15℃でエタノールを99.5v/v%以上含むものを指します。最大の特徴として、水にもオイルにも混ざることが挙げられます。通常、水と油は混ざりません。それは、「極性」が関係しています。極性を簡単にご説明させていただきますと、分子的に不安定で容易に他の物質と結びつく性質を言います。
水は極性が非常に高いのですが、油は非極性物質です。エタノールは、極性物質と非極性物質、両方に混ざります(両親媒性)。そのため、精油を溶かすことが出来ます。
※v/v%=濃度を示す単位で、重量ではなく容量パーセント濃度
【特徴】
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精油がしっかり混ざる
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水にも油にも混和(水のほうがより溶解しやすい)
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原液では皮膚や消毒に使えない
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洗浄に使用されることもある
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吸い込むとアルコールに酔ってしまうことも
【選ぶ時のポイント】
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工業的に製造されたものと、サトウキビなど食品を蒸留・発酵させて作られたものがある。食品用を選ぶと使用しやすい
【使用時のガイドライン】
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消毒用にするにはアルコール濃度を76.9〜81.4v/v%に薄めて使用する
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精油を混ぜてスプレーを作るには、81~89v/v%にする(89v/v%だと精油が全体の5%程度でもほぼ分離しない)
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ハーブに漬け込んで成分を抽出する
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引火性があるので火器があるところで使用しない
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高温多湿、火気と日光を避け、立てて保管

(無水エタノール+精油)+精製水=>(無水エタノール+精製水)+分離した精油
ルームスプレーのレシピで、無水エタノール10mLに精油数滴を溶かしてから80~90mL前後の精製水と混ぜると良いというものがありますが、アルコール度数が下がれば下がるほどアルコールが含有可能な精油量が落ちてしまいます。基本的に精油は、80v/v%あたりから急激に溶解度が低下し、分離します。
ルームスプレーについて
100v/v%の無水エタノール10mLに90mLの精製水を足すと、アルコール度数は10v/v%です。無水エタノールに精油を加えると容易に溶けますが、水と油であれば無水エタノールは極性の高い水のほうを好んで反応しますので、その作り方ですと無水エタノールは、水を混ぜた時点で精油から分離して水と混ざろうとするので(一部精油と結びついたままになる部分もありますが)、アルコール度数が10v/v%近くにまで一気に下がるため、含有出来る精油量もそれに合わせて相当に減り、結局大部分は水+エタノールと精油とに分離しますからお勧めは致しません。
●溶液が白濁=溶けていない精油成分が存在している
白濁している時、溶解していない精油が存在していて浮遊しているだけの状態を示します。
消毒用エタノールは72~76v/v%くらいで販売されていますが、100ccに対して精油1滴を落として振り交ぜたところ、白濁しました。
●溶け切っていない精油があるときは?
白濁している時は透明になるまで無水エタノールを足して精油を溶かし切りましょう。
もしくは、溶け切っていない精油の吸着濾過をします。
●精油の濾過吸着
白濁した液体を冷蔵庫で一度冷やした後、消毒したコーヒーフィルターに米粉を大さじ2~3杯ほどを入れてセットし液体をゆっくり注ぎ濾過すると、余分な精油が米粉に吸着され、エタノール&溶けている精油が米粉入りコーヒーフィルターを通過します(透明です)。
●スプレーの注意点
お子様などアルコールに弱い人は、エタノール濃度が高いスプレーが空間にまかれると酔ってしまう等、害が出ることもありますので気を付けてください。
水溶性ジェル
水溶性なので精油は当然溶けませんが、植物油と精油を混ぜたオイルローションよりも精油の肌への浸透性が高くなることから(研究結果あり)、利用価値がある基材として最近特にアロマテラピー業界で注目されている基材です。
精油は溶けないものの、かなり粘度がありますのでしっかり混ぜ込むことが出来れば精油は分散します。無水エタノールに精油を溶かしてから、ジェル原料を入れてしっかりと混ぜて、精製水を混和させる形です。お勧めは弊社でも取り扱っているマリナジェルです。
【特徴】
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精油は混ざらないが、ジェルの粘度により割と分散される
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オイルローションより精油成分の肌への浸透が早い
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自作ジェルは防腐剤がなく腐りやすいので7日をめどに使い切る
【選ぶ時のポイント】
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安全な基材かどうか
【使用時のガイドライン】
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精油は溶けていないので、使用ごとに混ぜる
何故オイルローションより肌への浸透が早いのか?
無水エタノールのところで「極性」について説明していますが、もう一度簡単に説明させていただくと、水は多くの物質と反応しやすい極性物質ですが、精油は安定しており他と反応しづらい非極性物質で疎水性物質です。また、極性同士、非極性同士で仲が良いです。極性物質の水と非極性物質の油は混ざり合うことはありません。
肌には皮脂という油や細胞壁、つまり非極性物質も持っていますので、水分だけでなく非極性物質であるオイルや精油も浸透します。精油が分散している水溶性ジェルを使うと、精油は自分が仲良く出来る非極性物質である皮脂を見つけたら、仲良くなれないほぼ極性物質のジェルから非極性物質である皮脂に移動しようとするのです。オイルローションだと、水溶性ジェルと違って精油はオイル内の居心地が良いことからオイルと一緒にゆっくり浸透しようとします。ゆっくり浸透するからこその良さがオイルにもありますが、早く浸透するのはジェル、ということですね。精油の特徴やご自身が求める効果で選択してください。
スピリタス(お酒)
アルコール度数が96%もあるお酒です。酒屋さんにて購入することが出来ます。
精油が非常によく溶けます。
精油をオイル成分少な目の食品添加物香料の基材として使用される場合、精油が200分の1~50分の1程度の重量濃度(容量濃度でも問題なし)になるようにスピリタスで希釈します。精油1滴が0.05mLなので、スピリタス5mLに精油1滴とだいたい100分の1濃度になりますね。作成した香料製剤は、使用後は冷蔵庫で保管し、数日以内に使い切ってください。
グリセリンには精油は不可溶
グリセリンは、食品添加物として甘味料、保存料、保湿剤、増粘安定剤などの用途で使われたり、医薬品の潤滑剤として使われたりすることがあります。学術分野では名称をグリセロール (glycerol) に変更しましたが、商品や材料名としてグリセリンという呼び名がまだ多用されています。水に非常に溶けやすく、吸湿性が強いです。エタノールやフェノールなどに溶けますが、オイル、精油など無極性物質は溶けません。
無水エタノールと精油を溶かした溶液にグリセリンを混ぜても、精油は分離します。
塩、エプソムソルトにも不可溶
精油は岩塩、塩には溶けません。精油と岩塩を混ぜてからアロマバスを楽しむというレシピにあまりにも多く、書籍やインターネット上でかなり多数の紹介記事を見たことがございますが、分離します。精油を一滴お風呂に落として手でバシャバシャしたのと同じ状態です。
バスボムなどに使われているエプソムソルト(硫酸マグネシウム)なら大丈夫!という情報も多いですが、実際は分離してしまいます。実験で15gのエプソムソルトに150mLのお湯を足してしっかりと溶解させた溶液に精油を1滴落としたところ、溶ける様子は一切なく分離しました。どうしてもお風呂に精油を入れたいなら、植物油で10%に希釈した「バスオイル」を作るが良いと思います。
エタノールは何故両親媒体なのか
親水性と疎水性、両親媒体
エタノールは何故両親媒体(水にも油にも可溶)なのか?
アロマテラピー実践における基礎知識として、水溶性(親水性)と疎水性に関しても少しお話しておきたいと思います。
●親水性を呈する物質の特徴
・極性を有する物質
・水素結合する分子を持つ物質
・電離する物質
極性
極性は上記で簡単な説明をさせていただいておりますが、もう少し専門的に話すと、電気的な偏りがある分子で電気的安定性を求めて、他の分子と結びつこうとする性質のことを指します。
油は電気的に安定している為、極性がありませんが、水は電気的に不安定であるため、極性がかなり高い物質です。
水素結合
水素結合とは分子間の相互作用のことで,水素原子(H)と,水酸基(-OH)・や窒化水素基(-NH)など、特定の原子間との間に起こります。水素結合を形成する分子には、例えば水(H2O)、アンモニア(NH3)などが挙げられます。
例えば水分子の中の酸素原子は、常にマイナスに帯電しており、常にプラスに帯電している水素原子と相互に強く引き合っています。それだけでなく、自分の周りにいる水素結合を持つ分子の持つ、水素原子、窒素原子も引き寄せようとして、それぞれの分子同士の強い引力が働きます。
電離する物質
水に溶けた時に、陰イオンと陽イオンに分かれる物質のことです。塩(NaCl⇒NA+とCl-)
●疎水性を呈する物質の特徴
上記の水溶性を呈する物質の特徴を持っていない分子です。
精油やオイルに見られる分子で言うと、CmHn(炭化水素)の形で結合している構造を持つ分子が疎水性を持ちます。
エタノールは親水性と疎水性両方の構造をバランス良く持つ
本題に戻りますが、エタノールの化学式はC2H5OHで、
C2H5(炭化水素)の疎水構造と、水酸基(-OH)の親水構造、両方を持ち合わせています。
ですが、両方を持ち合わせていたたとしても、疎水構造部分の力が親水構造の力よりもかなり大きい分子ならば疎水性を呈します。逆に、親水構造の力のほうが大きいのであれば親水性を呈します。
エタノールの場合は、疎水構造部分と親水構造のバランスがちょうど良いくらいなので、水とも精油・オイルともよく混ざるのです。
ですが、エタノールは水か精油(油)かどちらかだと、水のほうを選びます。そのため、精油とエタノールを混ぜたものに水を加えると、エタノールは水を選び、アルコール濃度次第ではエタノールと水の混合溶液の精油飽和量が減ってしまい、疎水性の精油は弾かれて分離してしまうのです。
精油の構造
ここでついでに精油の構造も見てみましょう。
精油の芳香分子にはCmHnの形で成り立つ疎水性の炭化水素に、疎水性だけでなく親水性を持つ官能基が結合しているものも多数存在しています。
親水性の官能基と、それと関連する芳香分子分類
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-OH(水酸基):アルコール類、フェノール類
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-CO-(ケトン基):ケトン類
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-CHO(アルデヒド基):アルデヒド類
ですが、精油に含まれる芳香分子は最低でも炭素数が10 以上で親水性の官能基よりも疎水性の炭化水素基の影響力が大きい為に親油性を呈し、一定の濃度以下のアルコールには十分に溶けないのです。
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